しかし内部でそっと、変わったものもある。
子供の姿に変わってしまったのは、この壁を突き破るためだったのかもしれない。今思えば、たまったものではないが。
子供は大人のように、曖昧さを抱えたままでは生きられない。傷つくことが分かっているなら、見ないふりをして真実から目を背けてしまえる大人ではない。
それと――――できるなら、甘やかされたかったのだろうか。
それが許されるなら、直球で聞いてみたかったのだ。
単純な嫉妬から始まった数日は、一応はハッピーエンドで幕を閉じたけれど、全てがめでたしめでたしで終わったわけではない。
土方を取り巻く真撰組の連中にまだ嫉妬もしているし、忘れられない傷をまた少し、開いてしまった。
今だそれを高杉は鼻で笑って吹き飛ばしてしまうことはできない。
けれど、それでもいいのだ。あの真撰組屯所で感じたものがただの郷愁であれば、そのうちに収まるだろう。
そうでなかったら、また自分は変わるのだろう――――変化は決して、悪ではないのだから。
高杉が気付いて見上げれば、人波に押し流されてもう賽銭箱の前まで来ていた。この人ごみだ、とてもではないが正式に参拝している余裕はない。
土方は柏手を打って一寸頤を引くと、その透けるような目蓋を伏せた。それに倣いながら、高杉は並んだその横顔を眺める。
何を願えばいいのだろうか。願い事がわかるようにという願い事は、もう昨日叶ってしまった。
さて、それでは礼でも言った方がいいだろうか。
そう思っているうちに、ほうと紅い唇から息を吐いて、青年は顔を上げた。妙にすっきりとした顔だった。
「…やけに真剣だったな。何を祈ったんだ?」
「教えねェ」
賽銭箱の横にそれながら、手首を握って尋ねると土方は目を細めて笑った。
それから一寸遠くを見るような、懐かしむような顔をして。
「…自分で叶えるから、叶えてもらわなくていいんだ」
呟く口唇が酷く楽しそうで――――そうか、としか高杉は返事が出来ない。
ただの誓みたいなものだと言う男の目に、出会ったときの鬼火はないけれど、その代わりににじむような星明かりが仄暗い瞳孔の宇宙の中に住んでいる。
「お前はどうなんだよ」
「…お前が言わねェのに、俺だけ教えるのは不公平だろうが」
高杉は唇の端をつり上げて肩をすくめた。
きっと同じなのだろう。土方も高杉も、きっと望むものは、不確定な――――それでも求めてやまない未来、それ一つ切りなのだ。
それをそのまま告げるのには、思うよりずっと長い時間が必要だろう。
しかし、このとき彼らを互いにその時間の存在を――――未来を、信じたのだ。
Smile Small! 了